5.3.8.2 旧約聖書に見る窃盗の禁止について

そもそも盗みを禁じる戒めは、誘拐(ゆうかい)を意図するものであった。というのは、人が誘拐されたり、売られたり、奴隷にされたりすることから解放することを目的としていたのである。イスラエルにおいて誘拐は死罪であった。財産に関する罪が物を賠償することで償うことができたのとは対照的である。「人を誘拐する者は、彼を売った場合も、自分の手もとに置いていた場合も、必ず死刑に処せられる」(出21:16)。誘拐行為に対しては、処することのできるあらゆる刑罰の中で最も厳しいものが与えられたのである。


さらに、他人の所有物を盗むことも処罰の対象であった。モーセの律法によれば、物を盗んだ場合は弁償を要求された。盗品価値の二倍を弁償するのが一般的だが、より厳しい時は四、五倍を弁償することもあった(出22: 1,4, 7, 9<新共同訳21:37;22:3,6,8>)。